[座談会のテーマ]どのような新しい価値を実現するか?

川又 常務

▲川又 常務

川又 :千住金属工業のCSR活動は、「有用な製品を世に供給することで、公器としての使命を果たす」という経営理念の追究であり、具体的には社会のお役に立てる新しい価値を創造する製品を継続的に開発・製品化していくことだと思います。そのような活動に信用・信頼さらには期待などのブランド価値が備わって持続的な成長につながると思います。今日は、ハンダ・テクニカルセンターのメンバーにお集まりいただきましたので、夢のはんだ材料についてお話をお聞きしたいと思います。

はんだ材料メーカーの使命として、鉛フリー化100%を実現させたい

吉川 俊策

▲吉川 俊策

吉川 : 現在、はんだ合金の開発を担当していますが、テーマの多くはお客様からの要望に基づくニーズ先行型で、市場の動向を調査し自から提案したシーズ先行型テーマは少ないように思います。その中で、EUのRoHS指令が施行されて10年以上経過していますが、現在使用されているはんだのEUでは40%、日本では30%にまだ鉛が含まれています。はんだメーカーで開発を担当する技術者として、「是非鉛フリー化100%を達成させたい」というのが私の夢です。

単に鉛フリー化するだけではなく、イノベーションを創出したい

上島 稔

▲上島 稔

上島 : 私も合金の開発をしていますが、同感ですね。更に欲を言えば、鉛入りはんだから単に鉛フリーはんだに置き換えるだけではなく、何かそこにイノベーションを創出する接合技術を開発したいですね。まさに、ジョイントシステムテクノロジーの探求でしょうか。

はんだ材料で、次世代のパワーデバイスを実用化したい

高木 晶子

▲高木 晶子

高木 :私は現在、次世代の半導体デバイスの実用化に向け開発をしているのですが、ここで使える高融点はんだがなくて困っています。鉛を含む高融点はんだはあるのですが、鉛規制範囲外での用途に限られたり、将来、鉛規制されるリスクを考慮すると、やはり鉛フリー高融点はんだが欲しいですね。

吉川 : 鉛を使用している材料を調査すると、そのほとんどが高融点はんだです。鉛フリー高融点はんだの必要性は唱えられているのですが、現存していないのが実態です。EUでは規制対象外や車載用はんだは規制がないこと、日本では鉛の使用 を禁止する法律がないので何とかなっていますが。

川又 : 皆さんの夢を聞かせていただいていると、鉛フリー高融点はんだの開発が共通となりそうですね。これからは、鉛フリー高融点はんだの開発に絞って進めていきましょう。

上島 : 次世代のパワー半導体実装には、低損失素子として期待されているSiCを使うのですが、省エネ・小型化設計を考慮すると動作温度が200~ 250℃となり、今まで経験したことのない、はんだ材料にはものすごく過酷な環境での使用になりますね。従来のSiでのパワー半導体デバイス用の高融点はんだの開発は、目途は立ってきましたが、SiC用は大変です。ここに何かイノベーションの創出を感じるんですよ。

高木 :太陽光発電や風力発電のDC/ACコンバーター、電気自動車の高効率インバーターには、SiCを用いた半導体がキーデバイスです。はんだ材料だけで「接合」という役割をすべて担うのは困難になってきている様に思います。何かほかの材料に補ってもらうとか信頼性を十分考慮したトータル設計の重要性を感じますね。

川又 : そうですね、北極には約10年後に氷冠に穴が開いて海のようになり、20~ 30年後の夏には氷冠は完全に消えるという報道から、北極の氷冠の溶解が予測より早く進んでいることが明らかになりましたね。このように地球温暖化が進行すると多くの人が洪水に見舞われたり、極端な気候変動が起こる可能性が高いので世界的な地球温暖化防止策が必要ですね。再生可能エネルギーを効率的に活用するスマートグリットの世界では接合技術を含む多くの技術革新が必要になりそうですね。

吉川 : 高融点はんだの用途はいろいろありますが、私は部品メーカーさんが必要とする再溶融して溶けださない、実装階層を実現できる鉛フリー材料を開発したいと思っています。この目的を達成させるためには、必ずしも高融点の合金開発ではなく、複合化した材料の開発が重要と思います。できれば、使用している現行のリフロー条件で接合ができ、高い温度のリフロー条件でもはんだが流れ出さない環境配慮型材料を目指したいと思います。

上島 : SiCでのパワー半導体用高融点はんだの開発は、まず動作温度下限値を満足させる材料からスタートし、徐々に上限値を満足させる材料を開発していきたいと思っています。しかし、高融点はんだだけで接合を果たせる時代ではなくなっている様にも思います。半導体実装やモールディングなど周辺技術の研究も重ね、ジョイントシステムテクノロジーとしてパワー半導体デバイスを開発したいですね。

高木 : はんだ材料以外の接合材料も検討されていますが、コストや機械的、電気的にも信頼性を有するはんだ本来の特徴を大切に、はんだ材料で次世代のパワーデバイスを実用化したいですね。しかし、私もはんだ材料だけで接合を果たすことは困難になっている様に思います。私は上島さんと違って社外の専門技術者とのコラボレーションで実用化を図りたいと思っています。

川又 : 夢の高融点鉛フリー材料の開発は、合金の開発だけでなく、複合化したり周辺技術も取り込んだりしてはんだ技術の枠を広げ、異分野技術の開発も含めてかなり高度な開発となりそうですね。千住金属工業は、はんだ材料メーカーから更に飛躍して接合材料メーカーとしての地位を築きたいですね。本日は皆様の夢をお聞かせ頂き、ありがとうございました。是非、夢を実現してください。